【最終学歴・学位・取得大学】 Ph.D. シカゴ大学
【専門分野】 古代オリエント学
【研究キーワード】 シュメール語、アッカド語、神話、行政経済文書、文法
【担当科目】 西洋史学基礎演習、西洋史学特別演習、西洋テーマ史/西洋古代史、卒業論文、西洋古代史演習、西洋古代史特殊研究
【問い合わせ先】
fumik●tamacc.chuo-u.ac.jp (●を@にかえてご連絡ください)
【研究内容】
みなさんが、高校の世界史の教科書を開いたときに最初に目にするのが、古代オリエントを扱う章かと思います。古代メソポタミアの文明が栄えたのは遠い昔ですが、私たちがその文明に負うところは少なくありません。六十進法や太陰太陽暦、そして何よりも文字を用いて記録するという行為の起源がそこにあります。私は、古代オリエントの歴史や文化を、紀元前3千年紀後半から2千年紀前半頃に記された楔形文字文書を用いて研究しています。特に、シュメール語文法、文学テキスト、シュメールの女性史の三つのフィールドに焦点をあてています。
シュメール語文法はまだよくわからない部分が多く、「シュメール語文法学者の数ほどシュメール語文法はある」と言われるほど、様々な解釈が提案されてきました。しかし、それ故に研究テーマとして非常に魅力的だと言えるでしょう。私は、博士論文でシュメール語文法の動詞、その中でも複合動詞と呼ばれる特殊なタイプの動詞を扱いました。まず、それらの動詞を含む文章を文学作品の中から抽出して膨大なカタログを作成しました。そして、それらの文章を分析してそれぞれの動詞の意味を割り出し、さらに、言語横断的な言語学の手法を借りて、文章構文のパターンを明らかにしました。博論提出後、シュメール語文法の関連では、自動詞・他動詞・使役動詞の構文、直接話法と間接話法、関係節、日本語の「〜のだ」に相当するシュメール語構文などの分析を行ってきました。
古代オリエントの神話や伝説の解釈・分析・比較もとても興味深いテーマです。英雄ビルガメス(シュメール語)/ギルガメシュ(アッカド語)の物語にしても、女神イナンナ(シュメール語)/イシュタル(アッカド語)の物語にしても、シュメール語文学とアッカド語文学は、文化的・歴史的経緯から、複雑に絡まりあっていて、どちらか一方で足りる事はなく、必然的に両者を扱うことになります。そして、これらオリエントの文学に、イナンナ/イシュタル女神のギリシア版とも言えるアプロディテを加えると、視界が一気に広がります。つまり、極めて面白いオリエントとオクシデントの東西文化交流という研究領域が待ち受けているわけです。
行政経済文書は、王宮や神殿など、公の財の出納管理を目的とした日々の記録です(もちろん、月毎、年毎、あるいは数年分をまとめた記録もあります)。紀元前3千年紀末のウル第三王朝時代だけでおよそ12万点のシュメール語行政経済文書が現存すると見積もられていますが、私の研究対象は、それよりも200年ほど早い、ラガシュ第一王朝時代の文書約1800点です。それらの文書は、代々の王妃が所有管理する「妃の家」と呼ばれる組織の出納記録で、当時の、特に王妃をはじめとする女性たちの仕事や地位や役割に関連するラガシュ社会の仕組みを読み解く鍵になっています。
古代の文書を読みながら私が何をしているのかというと、結局のところ、一体人間は何なのか、どのようにして今に至っているのか、というようなことを考えているのだと思います。
【主要な論文・著書】
Nicole Brisch and Fumi Karahashi, eds., Women and Religion in the Ancient Near East and Asia. De Gruyter, 2023.
Agnès Garcia-Ventura and Fumi Karahashi, “Socio-Economic Aspects and Agency of Female Maš-da-ri-a Contributors in Presargonic Lagash,” in N. Brisch and F. Karahashi, eds., Women and Religion in the Ancient Near East and Asia. De Gruyter, 2023, pp. 25–44.
「楔形文字資料と人文情報学」縄田雄二・小山憲司編『グローバル文化史の試み』中央大学出版部、2023年、169–178頁
「シュメール初期王朝時代ラガシュのエ・ミと園丁たち」松本悠子・三浦麻美編著『歴史の中の個と共同体』中央大学出版部、2022年、283–310頁
“Myths and Iconography of Goddess Inana/Ishtar: Intertextual Allusion, in “Sentido de un empeño”: Homenatge a Gregorio del Olmo Lete,” Lluís Feliu, Adelina Millet, Jordi Vidal, eds., Barcino. Monographica orientalia 16. Barcelona: Edicions Universitat de Barcelona, 2021, pp. 249-261.
“On the Cultic Aspect of the “Reform of Urukagina”: Some Changes in the Festival of the Goddess Baba.” Orient 55 (2020), pp. 63–70.
with López-Ruiz, Carolina, and Marcus Ziemann. “The Who Saw the Deep: Achilles, Gilgamesh, and the Underworld.” KASKAL 15 (2018, published 2020), pp. 85–108.
「シュメール初期王朝時代ラガシュ(ギルス)出土のエ・ミ文書における供物奉献の祭儀」妹尾達彦編著『アフロ・ユーラシア大陸の都市と社会』中央大学人文科学研究所研究叢書74, 中央大学出版部, 2020年,511-542頁.
“Female Servants of Royal Household (ar3-tu munus) in the Presargonic Lagash Corpus,” in A. Garcia-Ventura, ed., What’s in a Name?: Terminology Related to the Work Force and Job Categories in the Ancient Near East. Alter Orient und Altes TestamentT 440. Münster: Ugarit Verlag, 2018, pp. 133–146.
“Las mujeres en el period presargónico en Lagash: una vision de conjunto.” In J.J. Justel and A. Garcia-Ventura, eds., Las mujeres en el Oriente cuneiforme. Alcalá de Henares: Universidad de Alcalá, 2018, pp. 267–291.
“Royal Nurses and Midwives in Presargonic Lagaš Texts,” in L. Feliu, F. Karahashi, and G. Rubio, eds., The First Ninety Years: A Sumerian Celebration in Honor of Miguel Civil. SANER 12. Boston and Berlin: De Gruyter, 2017, pp. 157–171.
「ギルガメシュの死と死者供養」中央大学人文科学研究所編『続 英雄詩とは何か』中央大学人文科学研究所研究叢書64, 中央大学出版部, 2017年, 29-50頁.
with Agnes Garcia-Ventura. “Overseers of Textile Workers in Presargonic Lagash.” KASKAL 13 (2016), pp. 1–19.
“Some Professions with Both Male and Female Members in the Presargonic E2-MI2 Corpus.” Orient 51 (2016), pp. 47–67.